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2025年5月、日本を襲った「令和の米騒動」—価格高騰と供給不安の実態
2025年(令和7年)に入って、日本各地でコメの価格高騰と供給不安が深刻化し、「令和の米騒動」として社会問題化しました。
その兆候はすでに昨年2024年の夏ごろから見られており、この背景には、異常気象による不作、減反政策の継続、流通構造の変化、インバウンド需要の急増、そして一部業者の買い占めなど、複数の要因が複雑に絡み合っていました。
結果、飲食業界や量販店などで仕入れ価格が上昇し、スーパーなどの小売り店頭販売価格は2倍以上になり、一般家庭にも影響が及んでいます。
異常気象と減反政策が招いた供給不足
2023年の記録的な猛暑と渇水が、新潟県産コシヒカリの品質に深刻な影響を与えました。
特に、新潟県内では一等米の比率が過去最低の3.6%にまで落ち込み、例年の70%前後から大幅に低下しました。
高温障害により、米粒が白く濁る未熟粒(白未熟)や胴割れが多発し、品質の劣化が進行しました。
加えて、長年続いてきた減反政策により、生産量は需要ぎりぎりに調整されており、わずかな不作でも市場全体が大きく揺らぐ不安定な構造が露呈しました。
需給のバランスが崩れると、すぐに価格に跳ね返る体制が今回の混乱を招いたのです。
減反政策とは
減反政策とは、米の生産過剰を抑制し、需給バランスを保つために日本政府が導入した農業政策です。
1971年(昭和46年)から本格的に実施され、約50年にわたり継続されました。
この政策では、農家に対して米の作付面積の削減や他の作物への転作を促し、協力した農家には補助金が支給されました。
目的は、米価の安定や政府の在庫負担の軽減、農業の多角化を図ることでした。
しかし、長期的には農家の競争力低下や補助金依存の体質を招くなどの課題も指摘され、2018年に国による生産数量目標の配分が廃止されました。
2023年時点で需要が供給を上回っていた
2023年の時点で日本国内の米市場では、需要が供給を上回る状況が発生していました。
この年の猛暑により、主食用米の品質が著しく低下し、特に低価格米や加工原料用米の生産量が激減しました。
一方で、物価高騰の中でも価格が比較的安定していた米に対する割安感や、コロナ禍からの回復による外食産業やインバウンド需要の増加、外国人労働者の増加などが重なり、米の需要が急増しました。
さらに、品質低下により精米時の歩留まりが下がり、流通量を確保するために必要な玄米の量が増加したことも、需給バランスを逼迫させる要因となりました。
これらの複合的な要因により、2023年には需要が供給を上回る状況が生じ、米の価格高騰や供給不安が広がる結果となりました。
需要が供給を上回る状況が続くと、それに比例して物の価値は上がっていきます。
流通構造の変化と投機的行動が価格高騰を加速
従来、日本の米流通は農協(JA)を中心とした集約的な体制が機能していましたが、近年では生産者と業者の直接取引が一般化し、流通経路が多様化しています。
この変化により、流通の透明性が低下し、市場価格が変動しやすい環境が生まれました。
特に、2024年から2025年にかけては、業者による買い占めや売り惜しみが広がり、スポット市場では取引価格が前年比で約7〜8割高騰するなど、異例の高水準となりました。
このような投機的行動が、米の価格高騰を加速させる一因となっています。
政府の備蓄米放出とその効果
2025年3月の備蓄米放出
2025年3月、政府はコメ価格の高騰を受け、備蓄米約21万トンの市場放出を決定しました。
初回の入札では約15万トンが対象となり、3月14日に約14万1,796トンが落札され、平均落札価格は60キログラムあたり21,217円でした。
しかしながら、これにより一時的な価格下落は見られたものの、実際の店頭価格には反映されにくく、消費者からは「高止まりが続いている」と不満の声が上がりました。
流通現場での対応や小売側の価格転嫁など複数の課題が残っており、即効性のある解決策にはなりませんでした。
2025年5月の備蓄米放出
2025年5月、政府はコメ価格の高騰を受け、備蓄米の放出方法を大きく見直しました。
従来の入札方式から、業者との随意契約による販売に切り替え、より迅速かつ柔軟な対応を図りました。
この方針転換は、同月21日に農林水産大臣に就任した小泉進次郎氏の主導によるもので、前任の江藤拓氏が「コメは買ったことがない」との発言で更迭された直後のことでした。
小泉大臣は就任会見で「需要があれば無制限に出す」と述べ、備蓄米の積極的な市場投入を表明しました。
この政策変更により、5月末には2021年産の備蓄米約8万トンが放出され、特に中小の小売業者や米穀店向けに供給が行われました。
しかし、申請が殺到し、書類の不備も多発したため、農林水産省は6月2日午後5時で米穀店向けの契約枠の受け付けを一時中止する事態となりました。
また、備蓄米の配送に関しては、トラック不足などの課題が指摘され、小泉大臣は中野国土交通大臣と面会し、物流網の円滑な運用について協力を要請しました。
今後の展望と課題
今回の「令和の米騒動」を受け、政府は備蓄米制度の運用見直しや需給調整メカニズムの強化を検討しています。
特に、農業従事者の高齢化や担い手不足といった構造的な問題への対応が急務とされています。
また、気候変動による異常気象への対策として、災害に強い農業構造の再構築が求められています。
価格安定のためには、透明性の高い市場設計や流通体制の整備が不可欠であり、消費者と生産者の信頼回復が鍵となるでしょう。
2025年後半以降の米需給と価格動向
2025年産米の収穫量は、前年比で約40万トン増の719万トンと、調査開始以来最大の増加幅が予想されています。
この豊作により、2025年後半から2026年初頭にかけては市場にお米が潤沢に供給され、店頭価格はやや下落に転じる見込みです。
ただし、生産コストの上昇や流通の課題も残っており、元通りの価格には戻らないことが予想されています。